東京地方裁判所 平成10年(ワ)7245号 判決 1998年9月29日
原告
東京シティ信用金庫
右代表者代表理事
A
右訴訟代理人弁護士
荻原富保
被告
日本生命保険相互会社
右代表者代表取締役
B
右訴訟代理人弁護士
坂本秀文
長谷川宅司
松本好史
真田尚美
加藤文人
被告補助参加人
株式会社常葉工務店
右代表者代表取締役
C
右訴訟代理人弁護士
鈴木秀男
主文
一 被告は、原告に対し、金一三七六万一八八四円及びこれに対する平成一〇年二月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者等
原告は、信用金庫たる金融機関であり、被告は、生命保険業を行うことを目的とする相互会社である。
補助参加人は、原告の債務者であり、土木建築工事請負を業とする株式会社である。
2 原告の補助参加人に対する貸付
原告は補助参加人に対し、次のとおり貸金債権を有している。
(一) 貸付日 平成二年九月二七日(証書貸付)
貸付金額 金二七五〇万円
利息 年一パーセント(ただし、当初利率は八・五〇パーセントであったものが変更されたもの)
返済期日 平成一〇年二月一日(当初期日平成二年一二月二七日であったものが数次にわたって合意変更されたもの)
遅延損害金 年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)
現在残元金 金二六三三万九六八五円
(二) 貸付日 平成五年九月三〇日(証書貸付)
貸付金額 金一六億一七四五万円
利息 年一パーセント(ただし、当初利率は四・〇〇パーセントであったものが変更されたもの)
返済期日 平成一〇年四月一日(当初期日平成六年九月三〇日であったものが数次にわたって合意変更されたもの)
遅延損害金 年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)
現在残元金 金一三億一三二八万〇三二八円
(三) 貸付日 平成九年四月二五日(手形貸付)
貸付金額 金三〇〇〇万円
利息 年四パーセント
返済期日 平成九年一一月五日
遅延損害金 年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)
現在残元金 金一五〇〇万円
(四) 貸付日 平成九年七月二三日(手形貸付)
貸付金額 金四三〇〇万円
利息 年四パーセント
返済期日 平成九年一二月一日
遅延損害金 年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)
現在残元金 金四三〇〇万円
(五) 貸付日 平成九年九月二五日(手形貸付)
貸付金額 金七〇〇〇万円
利息 年四パーセント
返済期日 平成九年一一月六日
遅延損害金 年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)
現在損害金 金七〇〇〇万円
(六) 貸付日 平成九年一〇月二二日(手形貸付)
貸付金額 金九〇〇〇万円
利息 年四パーセント
返済期日 平成一〇年二月二五日
遅延損害金 年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)
現在残元金 金九〇〇〇万円
以上、貸金残元金だけでも金一五億五七六二万〇〇一三円となる。
3 補助参加人と被告との保険契約の締結
被告と補助参加人は、次のとおり生命保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
証券記号番号 <省略>
契約日 平成元年一〇月二〇日
保険の種類 利益配当付終身保険
被保険者 C
死亡保険金受取人 補助参加人
死亡保険金 五〇〇〇万円
4 原告の質権設定
原告は、平成九年一〇月一五日、原告と補助参加人間で平成三年一二月一九日に締結された信用金庫取引約定書に基づく一切の債権を担保するため(ただし一〇億円の限度)、本件保険契約に基づき補助参加人が取得する生命保険金及び払戻金(解約返戻金・責任準備金)請求権について質権の設定を受け、被告は、遅くとも平成九年一一月二〇日までにこれを承諾し、裏書した。
5 補助参加人の期限の利益喪失
補助参加人は、平成九年一一月一八日付けで本社を開鎖するとともに、本社入口シャッターに、「今般、某金融機関の違約により平成九年十一月度の買掛金、支払手形等の決済が不能になりましたのでお知らせ致します。なお、混乱防止の為、弊社事務所は、本日をもって閉鎖しますので、今後のご連絡は、後記事務所宛おとり下さるようお願い申し上げます。」との張り紙を掲出し、支払を停止した。
よって、前記取引約定書の約定により、遅くとも平成九年一一月一九日の経過をもって期限の利益を喪失した。
6 補助参加人の無資力及び原告の補助参加人に対する担保取得状況
原告の前記貸金債権に対する担保としては、補助参加人所有物や補助参加人代表者所有物等の物件があるのみで、これらを時価評価計算して原告が得られる金額は、金三億四〇〇〇万円程度に過ぎない。したがって、少なく見積もっても金一二億円程度の担保割れが生じている。
また、補助参加人は、平成九年一二月二五日、資金不足を理由に二回目の不渡手形を出したため、同月三〇日、東京手形交換所より銀行取引停止処分を受けた。
以上の次第で、補助参加人には見るべき資産は全くない。
7 債権者代位権に基づく本件保険契約の解約
原告は、被告に対し、補助参加人に代位して、平成一〇年二月二七日到達の内容証明郵便により、本件保険契約を解約する旨及び質権に基づき解約返戻金の支払を請求する旨の意思表示をした。
右解約により発生した解約返戻金額は、金一三七六万一八八四円である。
8 よって、原告は、被告に対し、質権に基づき、解約返戻金一三七六万一八八四円及びこれに対する解約の日の翌日である平成一〇年二月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2の事実は不知。
3 請求原因3及び4の事実は認める。
4 請求原因5及び6の事実は不知。
5 請求原因7のうち、原告主張の内容証明郵便が原告主張の日に被告に到達したこと、解約返戻金額が一三七六万一八八四円であることは認めるが、原告が債権者代位権を有するとの主張は争う。
三 補助参加人の主張
損害保険契約の場合は格別、生命保険契約は財産的意義を有する権利であっても、主として人格的利益のために認められる権利であって、いわゆる債務者の一身に専属する権利にあたり、原告の代位による解約は認められない。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1、3及び4の各事実は、当事者間に争いがない。
2 ≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、請求原因2の事実が認められる。
3 ≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、請求原因5の事実が認められる。
4 ≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、請求原因6の事実が認められる。
5 請求原因7のうち、原告主張の内容証明郵便が原告主張の日に被告に到達したこと、解約返戻金額が一三七六万一八八四円であることは、当事者間に争いがない。
右に認定した各事実によれば、原告は保険解約権を代位行使することができるものというべきである。
二 補助参加人は、右解約権の行使が一身専属権である旨主張するが、本件保険契約が利益配当付終身保険という生命保険契約であること、保険契約から生ずる金銭債権に対し原告のため質権が設定されていること等の事情に照らせば、本件保険解約権の行使を補助参加人のみの意思に委ねるべき事情は認められず、右解約権の行使が民法四二三条一項ただし書所定の一身専属権に属すると解することはできない。
三 結論
以上によれば、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷禎男 裁判官 齊木利夫 川淵健司)